【PREXリレーコラム №23】「いのち」を見つめなおす万博に- PREX Island
日本の公的機関
PREX最高顧問 国立民族学博物館長 吉田 憲司 氏
「いのち」を見つめなおす万博に
2025年の大阪・関西万博まで、もうあと2年を残すのみになりました。
自らの視野に収めた世界を展望することを目的に始まった万国博覧会ですが、国威発揚型、開発直結型の万博の時代はすでに終焉を迎えたと思われます。ただ、世界の人びとが実際に一か所に集まり、同じ経験を共有するということの意義と可能性は、まだまだ残されていると思われます。
とりわけ、2025年の大阪・関西万博は、図らずもコロナ禍というものを体験した人類にとっての、その後の初めての万博となり、しかもこれも、 図らずも「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとし、「いのち」に焦点を当てた万博になりました。
新型コロナウイルス感染症の地球規模での拡大によって、私たちは、私たちの生活が、目に見えないウイルスの働きに大きく左右されていることを思い知らされることとなりました。これからは、感染症の問題を考えるときも、あるいは日々の生活や社会のあり方を考える際にも、人間の社会や歴史だけでなく、動物、植物、さらには細菌、ウイルスまでも含めた「生命圏」全体を視野に入れたうえでの検討が必要なのだと痛感します。
人新世という時代の呼び名が使われ、人類の活動が地球全体の環境に不可逆的な負荷をもたらすという認識が広がってきた今、まさに、人間中心の生命観から脱却し、この地上の生をウイルス、細菌から、植物、動物を含む生命圏全体の営みとしてとらえなおすことが求められています。現在、各所で唱えられている脱炭素社会実現への要請は、そこからの当然の帰結です。
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる2025年に開催される大阪・関西万博では、脱炭素社会のあり方を示すという方向も基本方針として提示されています。この万博を通じて、脱炭素社会実現の見取り図を含めて、「新たな生命観」を世界の人びととともに獲得できるとすれば、それこそが今度の万博の最大のレガシーになるのではないでしょうか。
- 掲載日:2023年5月19日
- 企業名:国立民族学博物館長
- 氏名:吉田 憲司 氏
- 役職・職名:PREX最高顧問
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