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シンポジウム2024パネルディスカッション④- PREX Island

日本の専門家 SDGs
パネルディスカッション:世界とともに歩む。~国際協力=日本と世界をつなぐヒト・コト~④

海士町について

河添 靖宏氏

私は、海士町はどこにあるかというところから説明します。
隠岐には4つ島があり、その中に、中ノ島があります。
そこが海士町で、人口約2300人です。
隠岐と言えば、後鳥羽上皇、後醍醐天皇が配流されたところで、古くから北前船等、人や物の往来があったところです。
それ故に、今も、この島は島外の人々を受け入れる雰囲気があります。
さて、海士町が抱える高齢化、人口減、財政難、担い手不足等の課題は日本の地方部が抱える課題でもあり、世界でも同じような課題があります。
海士町はそれらの課題を克服してきたという点で注目されています。
ここに未来を作るヒントがあるというところでしょうか。
例えば、海の幸が豊かである一方で本土への輸送は時間を要するので、鮮度を保つために瞬間冷凍技術をいち早く取り入れて海産物の冷凍食品を特産品にしています。
また、「よそ者」を生かした街づくりも特徴です。
この島で何かやってみたいという若者を海士に招聘し、農業、水産業、観光や教育などの分野で挑戦を促し、町も伴走しながら開発を進めてきました。

隠岐島前高校における教育魅力化

象徴的な取り組みが、隠岐島前高校における教育魅力化だと思います。
海士町は人口減少に直面し、廃校になる寸前まで生徒数が減少しました。
高校がなくなったら、家族も島外へということになります。
この負の連鎖を食い止めるために、海士町は島前高校の教育魅力化に取り組みました。
生徒は学校の外に出て、地域の人々から課題を聞き出し課題を如何に克服していくのかを地域の人々と共に考え、探求する「地域課題解決型学習」を導入しました。
そうすると、次第に県外から学生が集まるようになりました。
今は、高校生に限らず、大学生や社会人に呼びかけ、地域おこし協力隊事業を活用し、「定住しなくてもいい」、「1年間あるいは3か月、島に暮らし、やりたいことやってみたら?」という軽い感覚で若者に来てもらい、担い手になってもらっています。
今年、この様な若者たちが海士町には100人ぐらいいます。

住みよいまちづくりと、魅力ある人、活力のある仕事を実現へ

海士町は、住みよいまちづくりと、魅力ある人、活力のある仕事を実現していこうと取り組んでいます。
魅力ある人を育む上で、世界とつながり、世界に発信する力を重視しています。
その様な機会として、JICAの研修コースが活用されています。
JICA研修コースの中では、隠岐島前高校の生徒にも講師に相当する役割を担ってもらっています。
高校生は地域課題解決型学習により身に着けた知見を基に、海士町の課題や課題解決の方向性について、研修員と意見交換してくれたりします。
海士町では、JICA海外協力隊のボランティアに行く前の人たちが、海士町のコミュニティを巻き込みながら海士町内の課題解決に向けて取り組む「グローバルプログラム」にも協力しています。

海士町の「教育の魅力化」をブータンで展開

JICA草の根協力事業を通して、海士町の「教育の魅力化」をブータンで展開しようという試みも行っています。
ブータンにも地方の人口減少という課題があるため、隠岐島前高校と海士町が取り組んだ教育魅力化を紹介しながらブータン側と地域課題解決型学習を進めています。
この草の根事業の中では、隠岐島前高校の高校生をブータンへ派遣し、地域課題解決型学習について双方の取り組みを発表し、意見交換を行っています。
2024年1月には、ブータンの生徒たちを海士町に呼んで勉強会を行いました。

都会的な価値観と地方的な価値観

ここまでの話の中で気づかれた方もいると思いますが、大きく分けると、都会的な価値観、そして、地方的な価値観が存在しており、海士町では地方的な価値観は重要ではないかと考える人が多い傾向にあります。
例えば、都会的価値観において、コミュニケーションは効率的に行われるのですが、地方的価値観においては、共感を大切にすることが往々にしてあります。
都会的価値観においては、計画性が重視されますが、地方的価値観においては自由な裁量や余白が重視されたりします。
仕事について、都会的価値観では分業、専業化が進んでいますが、地方では担い手不足もあり副業が当たり前です。
これが、結果的に人間力を育むきっかけになっている様にも思います。
都会的価値観、地方的価値観は、優劣の関係ではなく、両方重要である点は言うまでもありません。
国際交流や国際協力の意義を考えるとき、隠岐島前高校の生徒がブータンで学んだことが示唆をあたえてくれていると思います。
「いろいろな世界があると身をもって感じた」
「もっと海外のことを知りたい」
「高校へ進学して、学んでいる理由や意義を考えるきっかけになった」
「想像も及ばない海外がぐっと身近に迫った」
などの学びは、世界を自分事の様に考えるきっかけになっていると思います。

国際交流や国際協力に取り組むことの意義

SDGs達成のために国際交流や国際協力に取り組むことの意義について、いくつか挙げてみたいと思います。
まずは、魅力ある人の育成につながると思います。
また、海外の視点を得ることで、地元にある価値の再認識が促されることもあると思います。
海士町から知見を世界に発信すると、逆に海士町に知見が集まってきます。
海士町の関係人口を国内外に拡大し、社会を回していくために内外の様々な担い手との連携を深める上で、国際交流や国際協力は役立ちます。

海士町のスローガン「ないものはない」

最後に、「ないものはない」という海士町のスローガンをお話しておきます。
「便利なものは別になくてもよくて、大事なものは島の中にはあるのでそれを見出せばよい。なければ、作ればいい」という思想が海士町には根付いています。

 

コーディネーター 大野 泉氏

最後のメッセージ、素晴らしいです。

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  • 掲載日:2024年4月6日
  • 研修名:PREX×JICA関西シンポジウム
  • 氏名:大野 泉氏,河添 靖宏氏
  • 役職・職名:大野 泉氏(政策研究大学院大学(GRIPS)教授)
    河添 靖宏氏(海士町郷づくり特命担当グローカルコーディネーター)

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