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シンポジウム2024パネルディスカッション①- PREX Island

日本の専門家 SDGs
パネルディスカッション:世界とともに歩む。~国際協力=日本と世界をつなぐヒト・コト~①

コーディネーター 大野 泉氏

パネリストの皆さんは、海外と接点を持ってどんな活動をされてきたのでしょうか。
また活動を通して、相互の学び合い、共創、多様性、共生について感じたことがあれば教えてください。

国際協力と多文化共生は1本の線でつながっている

日比野 純一氏

国際協力と多文化共生は1本の線でつながっているというお話を今日はさせていただきます。
まずは、神戸での多文化共生のまちづくり活動についてお話します。
私たちエフエムわいわいは、阪神・淡路大震災で生まれた多言語放送の災害ラジオ局です。
当時、被災地には約8万人の外国人がいて、言葉の壁、心の溝、制度の壁が外国人被災者の前に立ちはだかりました。
ラジオで震災関連情報を言葉の壁を越えて伝える。
ふるさとの音楽や民話を届ける。
真っ暗なテント村で焚き火を囲んで聞く母語の響きが外国人被災者の傷ついた心を癒して、災害を生き抜くための力になっていきました。
そして、救援期、復興期を経て、エフエムわいわいは多文化共生のまちづくりを目的としたコミュニティのラジオ局になっていきました。
ラジオ放送だけではなく、外国人などマイノリティが暮らしやすいまちづくり活動に取り組む地域の拠点となっていきました。
これは、コミュニティの中の多様な声をラジオ放送やコミュニティ活動を通して地域に伝え、立場の異なるもの同士の相互理解を促す活動です。
その活動は、阪神・淡路大震災から5年後の2000年に、多文化共生をテーマに活動するNPOたかとりコミュニティセンターへと発展しました。
エフエムわいわいを含めた10の団体が、姉妹、兄弟のように協力し合いながら活動を続けています。

阪神・淡路大震災で生まれ、神戸で多文化なまちづくり活動に取り組んできた私たちが、なぜ国際協力活動にも取り組むのか。
きっかけは、世界中のコミュニティラジオの仲間たちとの出会いでした。
2006年にヨルダンでコミュニティラジオの世界大会が開催され、世界80の国や地域から400名以上が参加しました。
互いの知識、経験を共有して、参加者が暮らすコミュニティをより強く豊かにしていくことが大会の目的でした。
主催者から、阪神・淡路大震災からのエフエムわいわいのコミュニティづくりの取り組みを話してほしいという依頼があり、私が参加しました。
その大会で、例えば、先住民が民族の言葉を生きた言葉として継承し、ラジオで民族の誇りを伝える活動が世界中にあることを知りました。
そして、エフエムわいわいだけでなく、世界の被災地でコミュニティラジオが被災者を支え、寄り添う存在になっていることも知りました。
そして、そこで出会った世界中の仲間たちが大切にしていたのが、「コミュニティラジオの活動は9割がコミュニティの活動である」という精神でした。
こうした世界の仲間たちとの経験と知識の分かち合いが、2011年に発生した東日本大震災で被災をした気仙沼のフィリピン人女性たちの心の癒しとコミュニティの再生をしていく活動のベースにもなりました。
そして、エフエムわいわいは本格的に国際協力活動の世界へ入っていくことになりました。

2006年のコミュニティラジオの世界大会で出会ったインドネシアの仲間たちと自然災害が多い国同士、経験と知識の学び合いを17年以上に亘り積み上げています。
2010年に仲間たちが暮らす地域の火山が噴火しJICAの支援を得て、そこからコミュニティ防災力を高めていく活動を始めました。
神戸や東北で培った経験を生かして、地域の防災力を高め、コミュニティの再生を図っていくという活動です。
こうしたコミュニティの活動は人と人をつないでいく仲間づくりの活動とも言えます。
日本からインドネシアのエフエムわいわいの活動地域を訪れた人たちは500人を超えました。
また、インドネシアから神戸のエフエムわいわいを訪れた仲間たちも100人を超えています。
子どもの頃、日本で育ったインドネシア人の若者たちも、神戸からインドネシアにやってきた私たちの活動を支えてくれました。
被災地KOBEが培った知識や経験を伝えることは大切なことです。しかし、それだけで困難が解決されるはずもありません。
私たちが、日本や海外の被災地に出かけていってできることは、一緒に悩み、考え、そして夢を語り、そこから見えてきたことをできる限りにおいて、共に進めていく仲間であり続けることで、地域も文化も違う、縁あって繋がった人たちと一緒に社会を変えていきたい、良くしていきたいと考えています。
インドネシアやほかの地域の活動は、神戸での活動と同じく、仲間づくりの活動です。
そして、国境を越えて人は移動し、底流で社会はつながっていきます。

10年前にインドネシアのムラピ火山のふもとの村で実施した防災教育活動に参加していた男の子。
彼は今、外国人労働者として日本の農業を支えています。
インドネシアでのJICA草の根技術協力事業に参加したインドネシア人の女子大学生。
彼女はその後、日本人と結婚し、お母さんとなって神戸でNPOの活動に参加し、地域に暮らす外国人の文化をアートで伝える活動にも取り組みました。
今、エフエムわいわいはJICAのサポートのもと、南米ペルーで防災プロジェクトに取り組んでいます。
在日ラテンアメリカ人のコミュニティ団体が放送する番組が、ペルーのコミュニティとの架け橋となって始まったプロジェクトです。
このプロジェクトは、ペルー側だけではなく、在日ラテンアメリカ人のコミュニティの防災力強化にも大きく貢献しています。
そして、かつて私たちが実施した神戸に住む外国ルーツの子どもたちの育成支援活動に参加した在日ペルー人の児童の1人。
彼は20年後の今、このプロジェクトのスタッフとして、神戸で培った防災をペルーに届けています。
外国ルーツの青年が、2つの祖国をつなぐ存在になっているのです。
国境を越えて、国際協力と多文化共生は1本の線でつながり、やがて融合していきます。
自分の地域も大切に、そして仲間が暮らす地域も大切にしたい。
これが私たちエフエムわいわいの活動の基本です。

 

コーディネーター 大野 泉氏

どうもありがとうございました。
本当に大変だった時に日比野さんが駆けつけて、そこですごく心細い思いをしていたいろんな国の方たちを集めて一緒にやったコミュニティラジオ局。
今はそういった方たちが育ち、またコミュニティラジオを通じて世界中の仲間が繋がり、今度はインドネシアやペルーで一緒に防災力あるコミュニティづくりに取り組んでおられるのですね。
多文化共生と国際協力は繋がっていること、そして世代を超えた繋がりもあることを学びました。

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  • 掲載日:2024年4月6日
  • 研修名:PREX×JICA関西シンポジウム
  • 氏名:大野 泉氏,日比野 純一氏
  • 役職・職名:大野 泉氏(政策研究大学院大学(GRIPS)教授)
    日比野 純一氏(特定非営利活動法人エフエムわいわい理事)

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