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シンポジウム2024パネルディスカッション③- PREX Island

日本の専門家 SDGs
パネルディスカッション:世界とともに歩む。~国際協力=日本と世界をつなぐヒト・コト~③

グローバル企業の世界とのかかわり

遠山 晴香氏

ダイキン工業の遠山晴香と申します。
私からは、グローバル企業の世界とのかかわりというテーマで紹介させていただきます。
まずは自己紹介です。
2016年にダイキン工業へ入社して以来、アジア、オセアニア地域の企画、営業を担当しています。
2021年から現在に至るまで、フィリピンの販売会社へ出向し、駐在員として日々奮闘しています。
現在の仕事内容の中で、本日のセミナーテーマと関係していますのが、社会的な課題解決に向けた取り組みを行なっていますアドボカシー活動の部分です。

フィリピン市場に代表される東南アジアの市場はどういうものか簡単にご説明させていただきます。
皆さまご存じの通り、アセアン諸国は赤道直下、ほぼ熱帯気候に属しております。空調に対する需要が非常に高い地域です。
現在、ベトナム、インドネシア、そしてフィリピンでの伸びが顕著であります。
というのも、これらの国では気温が高いにもかかわらず、まだまだ空調機の普及率が低く、伸びしろがある為です。
フィリピンの市場の成長は著しく、市場規模は過去10年で約2倍に拡大いたしました。その成長を後押ししているのがアセアンで2番目に多い人口とその構成です。若年層が多く、年々中間所得層が拡大しています。また、最も電気代が高い国としても知られ、電気代を抑える為、省エネ商品のニーズが高いのが特徴です。
エアコンの商品としての特徴は、日本でも昔は使われておりました窓にはめるタイプのウィンドウエアコンがまだ市場に半数残っておりまして、順次セパレート型へ移行しているという最中です。
東南アジアでは、暖房機能が必要ないため、冷房専用のエアコンを発売しています。

ダイキンの直面する国際的な3つの社会課題

ダイキンの直面する国際的な社会課題は大きく3点あります。
まず1点目、空調に使われる冷媒を通じた地球温暖化、
2点目がカーボンニュートラル化、
3点目が、空調機の据え付けサービスに関連して技術力の向上、

この3点です。

1点目は、オゾン層保護に向けて、より温暖化係数の少ない冷媒へ世界で転換が進められています。
ダイキン工業は、その特許を持っておりました。
特許を保持したままですと、市場の切り替えに時間が掛かりますので、その特許を、途上国、次いで全世界へ開放しました。
それによって、現在は多くの企業が温暖化係数の少ない主力冷媒として商品展開を行っています。

2点目のカーボンニュートラル化について、社会の電力装置、消費を削減する為には、エアコンの省エネがかなり重要となっています。
エアコンの省エネとは2つに分けられまして、一つはメーカーが省エネエアコンを開発すること、二つ目は、各国が省エネでないエアコンを市場から徐々に排除していくこと、その双方に取り組んでいる最中となっています。

3点目の技術力につきましては、機械を取り扱う技術者の品質を担保する制度が整っておらず、消費者にとって不利益となる事故や不具合が多く引き起こされています。
それをいかに防ぐか、業界全体のレベルアップに向けて取り組んでいます。

課題①フィリピンでの具体的取り組み

これら3点の課題について、フィリピンでの具体的取り組みを紹介させていただきます。
まず、家庭用空調、省エネ化について。
実は、家庭のエネルギー消費の4割を空調が占めているということをご存じでしょうか。
エネルギー消費を抑える為には、空調の省エネ性が非常に重要となっています。カーボンニュートラル化に向けて、政府へのロビー活動も重ねており省エネラベルが2022年にようやく義務化されました。
ラベルによって省エネ性の低い商品を明確化し、消費者の皆様にとって商品を選ぶ基準は省エネ性が最優先であるということが、ようやく認知され始めました。
最近はリーディングカンパニーとしていち早く商品展開、市場啓蒙に注力し、ようやく浸透してまいりました。
また、ラベル付与にあたり満たす必要がある省エネ性能値のボトムラインの段階的アップグレードについても提言を進めています。
ラベルが義務付けられるだけでは、低効率の商品が市場に残ってしまい、省エネへの転換が期待できません。
それに対抗する為には、省エネ性を基準とした足切りを実施する必要があり、フィリピンが遅れを取らないよう他国と足並みを揃える定期的なアップグレードを政府に提言しています。
こういったことを各ステークホルダーに対しアプローチしています。
結果として、一歩ずつではありますが、省エネ性の低い商品が減少し、今後はセパレート型の市場が拡大していく見込みです。

課題②家庭用空調の施工品質の課題について

次は、家庭用空調の施工品質の課題について。
これまではウインドウ型ばかり使ってきたフィリピンの市場では、きちんと空調を据え付けられる技術者というのが不足している現状があります。
間違った方法で取り扱った結果、最悪の場合室外機が突然爆発するような大きな事故に繋がってまいります。
現在、教育制度が整っていない状況で、ダイキンが行なっている対策としては次のようなものがあります。
フィリピンには技能開発省という政府機関があり、そこで資格試験を実施しています。
そこにダイキンの持つ据え付け技術者育成プログラムの全工程を無償で提供し、新資格として導入を実現しました。
また、利用可能な研修施設の数が少ないという問題にも、ダイキンが研修施設をフィリピン各地に無償で提供し、市場全体の技術力の底上げに尽力しています。
これによって、ダイキンの取り引き先だけでなく、空調業界にいる全技術者が教育を受ける措置が整い、商品を提供するダイキンだけでなく、技術者、更には一般消費者の三者にとってウィン・ウィン・ウィン(win-win-win)を実現しようとしています。

課題③カーボンニュートラルにつながる省エネ性の高い空調商品を利用する仕組みづくり

フィリピンの事例、最後の3点目です。
これもカーボンニュートラルにつながる話です。
発展著しいアセアンでは新しい都市開発が進んでいます。
政府方針で地方の街づくりが行なわれています。
オフィスビルや店舗など業務用空調が使われるビルに向けて、空調はエネルギー消費量の4割を占めるため、省エネ性の高い商品を利用する仕組みづくりをしています。
世界では省エネ性と快適性を両立する個別分散空調と呼ばれるものが主流ですが、フィリピンはそうではありません。
また、国からの基準もない状況となっています。
したがって基準がないが為にコスト優先で非効率な空調が採用されてしまっているのが現状の課題です。
その対策として、ダイキンは世界に関係組織を持つグリーンビル協会と協業を進めています。
環境意識の高い地方自治体と話をし、ビルの省エネ基準を作るために活動しています。
地方自治体と個別に都市開発における空調分野支援の覚書を調印し、その都市に進出するデベロッパーやコントラクターに対し、効率のいい空調・換気機器などの啓蒙を進めています。

総括:企業として海外と接点を持つ際の強み

総括としては、企業として海外と接点を持つ際の強みというところですが、ありがたいことにダイキンは温暖化、脱炭素化の世界課題の中で、トップメーカーであるという認知を受けており、政府や業界団体が意見を聞いてくれ易い状況にあるというところが、まず、強みの一つ目です。
また二つ目として、会社として、上記環境課題に対して、新たな基準づくりに積極参加する方針、また、実績もあることによって、今、私達が草の根で活動していることも、徐々に効果が芽吹いていっていると実感をしております。
この相互の学び合いや共創、多様性や共生が、国際協力でもビジネスにおいてもキーワードといえますが、私の考えるキーワードは、「最寄り化生産」、「地域横串」、この2点です。
ダイキンは売り上げの8割が海外から来ております。
つまり、世界300以上の拠点各地のニーズを満たさないと商売にはなりません。
その土地を知り、より良いサービスを提供し続けることが必要となっております。
気候風土によってニーズが全く異なり、また、空調は快適性にかかわるため、その土地に合わせていかないといけないという状況です。
「最寄り化生産」というのはとても重要とされております。
また、地域横断の取り組みとしても、他国の事例を参考に、新しい地域展開をする際にも、それを参考とした、より発展した活動に繋げていけるというのは、ダイキンの強みであって、今できていることということで紹介させていただきました。

 

コーディネーター 大野 泉氏

どうもありがとうございました。
アジアや世界の各国でエアコンを広めていく際に、省エネや温暖化対策の重要性について具体的に政府に働きかけ、業界団体の協力を得る活動、また販売店等で施工技術をもつ人材の育成など、いろいろな取り組みが求められると思います。
遠山さんのそのあたりの努力をこの後で伺ってみたいと思います。

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  • 掲載日:2024年4月6日
  • 研修名:PREX×JICA関西シンポジウム
  • 氏名:大野 泉氏,遠山 晴香氏
  • 役職・職名:大野 泉氏(政策研究大学院大学(GRIPS)教授)
    遠山 晴香氏(ダイキン工業株式会社 ダイキンフィリピン社 出向 営業企画マネージャー)

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