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シンポジウム2018パネルディスカッション 前編- PREX Island

SDGs
シンポジウム2018パネルディスカッション/チェンジメーカーが社会を変える(1)

コーディネーター 後藤 健太 先生 (関西大学 経済学部 教授、写真右端)

後藤:今回の基調講演は、坂本達さんでとても素晴らしい講演だったと思います。
PREXからシンポジウムの相談を受けた時、今回のテーマ「チェンジメーカー」にふさわしい人、そして、私が会いたい人として坂本達さんを推薦しました。坂本さんは、自転車で世界を一周するという大偉業をして、周りに影響を与え、チェンジを生み出してこられました。独自性を出す、強みを高める、そうしたことは、一人ではできるものではなく、支援があったということがメッセージだったと思います。引き続き、このパネルディスカッションでも、エキサイティングな議論をしていきたいと考えています。

基調講演の後にPREXの活動紹介がありました。研修員は、日本での研修を受け、国に帰って社会を変えようとしていますが、一人では国の状態は変わらないですね。でも、誰かが何かを始めなければなりません。私もさまざまな国を訪問していますが、PREXの活動を通じて、たくさんの関西ファンが世界中に散らばっていることを実感しています。

また、今日のシンポジウムでは、SDGs(エスディージーズ:Sustainable Development Goals-持続可能な開発目標)にもつながっています。SDGsに関しては、面白いことに2年前には誰も何も言いませんでした。それが、ここにきて活気づいてきました。SDGsとは、世界が抱える問題を解決し、持続可能な社会をつくるために世界各国が合意した17の目標と169のターゲットです。2015年に、SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)を継承し、国連で採択されました。貧困問題をはじめ、気候変動や生物多様性、エネルギーなど、持続可能な社会をつくるために世界が一致して取り組むべきビジョンや課題が網羅されています。MDGsは、政府が中心となって進めるものでしたが、SDGsは、政府だけではなく企業、市民社会に住む私たち全員に役目があります。これを達成するには一人一人がある意味のチェンジメーカーにならなければなりません。

今日のパネルディスカッションのパネリストは、SDGsにつながるチェンジを作っている方ばかりです。

坂ノ途中という会社を知っている方はどの位いらっしゃいますか?

小野 邦彦 氏(株式会社坂ノ途中 代表取締役、写真左から2番目)

小野:一割弱ですね。2009年から活動している会社でマニアックな方は知っていただいているようになってきました。一言でいうと野菜を販売している会社です。ユニークな点は、扱っている野菜が、1つめは農薬や化学肥料を使っていないこと、2つめは、400種に及ぶ珍しい野菜であること、3つめは、新規就農の方が育てた野菜だということです。この9年間で世の中が変わってきて、新規就農者の誘致に積極的な自治体さんも出てきていますが、新規就農の方と連携して事業を続けられているという点では、おそらく日本初、または唯一の団体です。

農業は多面的で面白いものです。

小野:農業にかかわるテーマは、地域活性化、離島振興、食の安全安心、環境……といろいろあります。一方で、農業は、人間が生み出した最強の環境破壊ツールでもあります。低コストで大量生産をする工夫は素晴らしく進歩していますが、環境に負担をかけないという視点では、まだまだできることがあるだろうと考えています。低コストでの生産は将来に負担をかけることで成り立っている、という場合もあります。

未来からの前借ではない農業

小野:農業と環境というテーマは、多くの国で政策目標にも入っているテーマです。有機農業の農地の割合を増やしていこうという国としての方針が打ち出されています。日本も同様です。一方で、日本では担い手のいない農地が増えています。これは、日本では暗いニュースとして扱われていますが、未曾有の事態であるので、実際は、暗いニュースなのか明るいニュースなのかまだわかりません。たとえば、農家の子供でなくても農業を仕事にできますし、有機農業を志している都会の人が、地方の空いている農地で新規就農者となることができます。そう考えるとチャンスでもあるはずです。ただ、新規就農者は、少量不安定な生産できないため、安定的な取引先がないのが実情です。そこを、坂ノ途中では、新規就農者がそだてた少量不安定な農産物を集めて、レストランに販売したり、百貨店の野菜売り場を作ったり、ネット販売で消費者に届けたり、という事業をしています。

本当においしい野菜をつくる新規就農者

小野:はじめは、この事業は、新規就農者の「少量不安定」という弱点を消すしくみだと考えてきました。でも実際は彼ら、彼女らの強みに助けられています。彼らは本当においしいものを作っています。みなさんが農業に携わりたくて仕事をしているので嫌々働いている人は一人もいません。よく勉強し、よく働きます。いいものをつくることへの挑戦や意欲が旺盛にあるのです。大規模の生産法人では対応できないようなことにも、柔軟に取り組めるのでバリエーションのある農産物が育てられます。坂ノ途中は、ネット販売で季節のお野菜を家庭に販売していますが、珍しい野菜が次々届くので、大変好評です。

後藤:小野さん、ありがとうございます。お話しのキーワードは、「相互依存」でした。新規就農者と小野さんの関係で良い野菜ができていくんだなと思いました。オンリーワンの強みを磨くということと相互依存の関係を結んでいく関係がよくわかりました。

 

パレスチナのイメージは?パレスチナ最後の織物ラスト・カフィーヤ

北村 記世実 氏(パレスチナ・アマル 代表、写真右から2番目)

北村:パレスチナ・アマルは、NGOやNPOではなく、個人事業としてビジネスを展開しています。今年で5年目の新しい取り組みです。パレスチナと聞くとテロや紛争のイメージがありますが、パレスチナには豊かな伝統や文化、人々の営みがあります。パレスチナ・アマルは、パレスチナの刺繍製品を通して現地の伝統文化を伝えること、生活支援を行うこと、雇用を生み出すことをミッションとしています。扱っているのは、ラスト・カフィーヤという色とりどりの織物、オリーブ木工細工・サンダル等の伝統工芸品、パレスチナ刺繍製品です。ガザはガーゼという言葉の由来になるほど織物の盛んな地域でした。ラスト・カフィーヤというのは、パレスチナ最後の織物という意味で、自動車メーカーのスズキが扱っていた古い織機でつくられています。パレスチナ・アマルでは、日本の古い技術がパレスチナの地場産業を支えているのが素敵だと考えて、この商品を扱っています。

なぜパレスチナなのか?

北村:パレスチナは、ガザ地区とヨルダン川西岸地区があり、150万人が密集した形で住んでいます。世界最悪の人口密度の中で15年間完全封鎖された状態です。私は、大学時代の友人が現地の駐在員をしていた関係で、1999年にパレスチナのリハビリセンターでのワークショップに参加しました。パレスチナの人たちは「虐げられている、かわいそうな人たち」と言うイメージを持っていて、不安な気持ちもあったのですが、実際に迎えてくれたのは、貧しいけれど明るく優しくホスピタリティにあふれている人々でした。私は、パレスチナの人々の精神性の高さに魅了されました。でも、2001年に、 2回目にガザに行ったときは、状況が一変して街は瓦礫になっていました。ユダヤ人の入植地からは銃声が聞こえ、海の向こうからアパッチヘリが飛んでくる状況でした。滞在中に知人が殺されてしまい、大変ショックを受けました。それをきっかけに、私は、パレスチナのために何ができるのか真剣に考え始めたのです。始めは、役に立てる仕事ということで看護師をめざしました。これが合わなくて、自信を落としていた時、パレスチナ刺繍を思い出しました。

UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の刺繍プロジェクト「Sulafa」

北村:パレスチナの刺繍には模様の一つ一つに意味があって、とても素敵なものですが、日本ではほとんど知られていません。パレスチナ・アマルは、いろいろな方のご縁と支援で、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の刺繍プロジェクト「Sulafa」でつくられた製品輸入・販売ができるようになりました。そして、クラウドファンディングでブランドブックとウェブサイトを作り、現在は、ネットでの販売、パレスチナに関するイベントや百貨店での販売を行っています。

「Sulafa」は、1950年に国連(UNRWA)によって立ち上げられました。作り手は、働き手の夫を失った未亡人や、離婚し安定した収入がない弱い立場にある300人のパレスチナのガザの難民女性たちです。一針一針、丁寧に刺繍をほどこし、商品が作られています。インストラクターがついて指導しているので品質も良いです。是非皆さん、一度手に取ってみてください。

16年振りに再びガザに!

北村:2017年夏に、16年振りにガザのビジネスコンテストの関係者とともにガザに入ることができました。ガザは2007年以降、完全封鎖されており、物の流通も人の移動も厳しく制限されています。今は国連関係者だけがガザに入ることを許可されるような状況です。私は、自分が生きている間にはガザには入ることができないのではないかと思っていましたが、友人とも再会することができ、本当に幸せでした。夢が一つ叶いました。

2018年1月には、米国がUNRWAへの拠出金(約138億円)のうち、半分の支払いを凍結すると発表しました。ガザは貧困のため人口の約80%が国際援助に依存するしかない状況です。凍結されたお金の中には、教育、医療、福祉に使用されるお金が入っています。その中において、職業訓練的な「Sulafa」は、とても大切な活動ではあるのですが、資金をまわす優先順位は低く、活動継続が危ぶまれています。今後もクラウドファンディング等を通じて、モノづくりで、ガザの難民女性たちの尊厳を守るプロジェクトを支援していきたいと考えています。

後藤:北村さんのお話しは、determination:デタミネーション「強い意志」「決意」ということでした。私が教えている学生には、4回生もいます。就職活動をする時期になって、「迷う羊」みたいな学生もいます。でもいつかは、私はこれをするということが、わかってくると話しています。それは、学生の時かもしれないし、40歳や50歳になる時かもしれません。でも自分が何をするべきか、わかっている人は輝いています。そして、北村さんのお話にも、「助けることで助けてもらえる」というお話が出てきました。そして、この活動に対し、とても入れる状況にないガザへの入国許可書が発行されるのです。「私は、これをやってます」ということが際立つと周りが動くのだなと思いました。

私の原点、「銀行を変えたい」との思いが今年で26年

藤原 明 氏(りそな総合研究所 リーナルビジネス部長、写真左端)

藤原:銀行に就職して、支店配属の初日にやめようと思いました。イメージしていたのと違い、あまりにも官僚的な組織にカルチャーショックを受けたからです。でもある日、「絶対に変わりそうにない、銀行を変えることをライフワークにしよう」と思った瞬間にすごく気持ちが楽になりました。そして今に至っています。

2003年3月に大和銀行とあさひ銀行が合併してりそな銀行が生まれましたが、そのたった2か月後に「りそなショック」が起こり、公的資金残高が3兆1280億円(2015年6月完済)となり、JR東日本の細谷英二副社長(当時)が会長に就任し、ファーストメッセージが「新しい銀行像を作ろう!」でした。入社以来持ち続けていた「銀行を変えたい!」という思いが実現できる可能性が生まれたのです。その2か月後に本部に転勤になり、ミッションとして、新しい銀行像をイメージできる施策を形にするということが与えられました。それからは、おおよそ銀行らしくないものばかり取り組みました。

りそなグループの協働プロジェクトREENALとは??

藤原:リーナルというのは、REENAL=RESONA+REGIONALの造語で、りそなグループの協働による地域活性化プロジェクトです。15年やっていまして、500を超える企画を形にしました。このケーススタディをベースに体系化した手法がいろいろな分野で活用できるということで、現在は大学で講義をしたり、地域や企業で地方創生、起業支援のワークショップを行ったりしています。

たとえば、アートなキャッシュカードを作った事例では、りそな銀行がFM802と協働して、若手アーティストの発表の場としてキャッシュカードを活用しました。これは大変人気がでて、女性・若年層の支持を得ました。第1弾-第16弾まで続き、合計78万枚が作られました。りそな銀行は女性や若年層の支持を得たい、りそなショックによって低下していたブランド力を回復させたい、FM802は、若手アーティストの活躍の場を作りたいと考えていました。ショーウィンドウやキャッシュカードの券面を持っていたのがりそな銀行の「強み」で、クオリティの高い若手アーティストを発掘していたことがFM802の「強み」でした。お互いの強みで「足りないところ」を補い合うことがすごい力になることを発見しました。

りそな銀行×クリエイター×FM802×象印マホービンで「マイすいとうを持とう」というコンセプトで実施した「RE!SUITOU/マイすいとう・マイボトル」は2005年がプロジェクトの始まりでした。クリエイターの環境にやさしく、コミュニケーションツールにもなる「すいとう」のある暮らしを取り戻すために、フリーマーケットイベントの目玉企画として「すいとうを持とう!」いうキャンペーンをやりました。ラジオでお呼びかけたところ30,000人がイベント会場に集まり、その内1,000人がマイすいとうを持ってきてくれました。これがきっかけとなって、翌年から象印マホービンさんに参画していただき、マイボトル・マイすいとうの取組みが世の中にどんどん広がっていきました。協働することで、誰も損をしない形で、マーケットを創ることができることを体感できました。

これからも、さまざまな分野・領域の方々の本質的課題である「やるべきこと」を解決するために、それぞれの「やるべきこと」と「強み」を明確にして、的確につなげていくREENALプロジェクトを広めたいと考えています。

予算0宣言

藤原:でもこの事業が、銀行にとって直接的にどんな利益に繋がるのか、という社内での議論もありました。そこで打ち出したのが、「予算0宣言」です。これまで、個々のプロジェクトが繋がってうねりとなってきたこのREENALプロジェクトですが、経費を使っていたものもありました。それを予算0でやっていこうということになりました。

銀行は、融資活動をやっているので、強みを掴まないと成り立ちません。また、本質的な課題のやるべきことを把握することも必要です。リーナル式手法では、強みとやるべきことを明確にすることで、強みを組み合わせていくことで、やるべきことを実現していきます。500を越える協働ケーススタディを通じて積み上げたこの手法を体系化・ビジネスモデル化し、コミュニティ支援や企業・起業家支援について、年間300を超える講義・講演・ワークショップを行うことで、常に進化させています。さまざまな分野・領域で活用していただきたいと考えています。

続く

  • 掲載日:2018年5月13日
  • 研修名:2018年5月7日(月)、大阪国際交流センターにて開催したPREXシンポジウムの内容をまとめたもの 
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