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インタビュー記事2:大阪市男女いきいき財団さんで実施している、DV被害者へ対する取り組み- PREX Island

日本の公的機関 SDGs
インタビュー記事2:「陰のパンデミック」~DVやジェンダーの不平等~

2019年に発生した新型コロナウイルス。世界中で感染が拡大し、世界的流行(パンデミック)をもたらし、更に貧困や格差などを拡大させています。中でもDVやジェンダーの不平等が深刻化し「陰のパンデミック」と呼ばれています。大阪市男女いきいき財団さんで実施している、DV被害者へ対する取り組みをお伺いしました。

※2022年8月に大阪市男女いきいき財団の事務局次長を務める沢田薫様に、PREX職員の児島がインタビューをさせていただきました。(以下敬称略)

「隙間」を埋める支援。DV被害者を公的支援へ繋ぐ「夕陽丘基金」の誕生。

【沢田さん】
男女いきいき財団では、様々な活動を行っていますが、特に力を入れているのがDV被害者へ経済的援助を行う「夕陽丘基金」の取り組みです。

女性が電話で気軽に悩みを相談できる取り組みを長年実施しているのですが、毎日平均して約40件の相談電話があり、1~2件はDVに関連する相談です。

DVの被害を受けた方へは、行政が実施している支援がありますが、行政の公的な支援を受けるためには申請のための手続き等で、時間がかかります。
ですので、パートナーからの暴力で身の危険がある方や、着の身着のまま逃げなければいけない方は行政の支援に辿りつけず、苦しんでいる被害者が多くいました。

行政は資金を迅速に貸し付ける支援を行えません。
短期的にサポートが必要なDV被害者が、公的な制度に辿り着くまでの「隙間」を埋める必要があるということがわかり、
経済的な援助を行う「夕陽丘基金」を2004年に立ち上げました。

夕陽丘基金は、私の所属する財団だけではなく、他に3つの団体と協力をして、立ち上げた活動です。
資金がショートしてしまっては、求められている支援を行うことが出来なくなるので、イベントなどで募金活動を定期的に行い、資金を確保しています。

これまでに500件以上、生活費や医療費(怪我をしている人が多いため)で合計630万円ほどの貸し付けを行い、DVの被害者を支援してきました。

【PREX児島】
沢田さんの話をお伺いして、「DVの被害に苦しんでいる方がこんなにもいるのか。」と驚きました。
DVの問題は、当事者や支援にあたっている人しか実態が見えず、社会から見えにくい問題のため解決が難しいように感じました。

今年で18年目になる夕陽丘基金ですが、これまでの活動を通じて感じていることをお伺いできますでしょうか?

「人権」が重要。DVの被害者を少しでも減らすために

【沢田さん】
「DVは社会から見えにくい問題である」という児島さんの指摘する点も大きな課題だと思っているのですが、実はもう1つ大きな問題がありまして、それは「自分の権利意識」すなわち、「人権」を理解できているかということです。

DVに苦しむ被害者を助けるには、まず本人がDVだと自覚をして、私どものような支援団体に助けを求めてくれることが支援のスタート地点です。
家庭は非常に閉じた空間ですので、公的な空間にアクセスしてもらう必要があるのですが、DVを「こんなものか」と認識して被害を受け続けてしまう方や、支援を受ける権利があると思わない方も一定数いるのが現状です。

大阪市が実施したDVの認識に関するアンケート(2015年と2019年の比較)結果をお伝えしますね。
下記の調査結果から、意識が確実に変わってきていることは良い傾向と捉えることが出来るのですが、100%には至っていません。
この結果はとても悔しいといいますか、非常に残念だなと感じています。

質問項目 2015年度 2019年度
殴る、蹴るなどの行為を暴力だと思う。 約87% 約92%
暴言をはく。見下すなどの行為を暴力だと思う。 約65% 約70%
行動宣言や自由の制限は暴力の1つに該当する。 約46% 約57%

※「はい」と回答した人の割合
【参照】
クレオ大阪ホームページ「調査研究テーマ・報告」
男女共同参画についての市民意識調査報告書(平成28年3月)内、117P
「男女共同参画に関する市民意識調査」 (令和2年3月)内、63P

【PREX児島】
「殴る、蹴るなどの行為を暴力だと思う。」という、身体的といいますか、顕著に人権が侵害されていると理解できそうな項目でも暴力だと思っていない方が一定数いるという結果にとても驚きました。

自己肯定感と自己効力感を高めることが重要

【沢田さん】
暴力を暴力と捉えられなというのは、自分の主体性が脅かされるということに対する権利意識がとても低いということです。

「人権」の問題について話はじめるととまらなくなってしまうので、今回のインタビューでは私が重要だと思っている2つの「感覚」について、お伝えいたします(笑)

私は「人権」に関して非常に大切な感覚が2つあると思っておりまして、1つ目は「自己肯定感」です。
よく耳にする言葉だと思いますが、「自分の存在そのものを認める感覚」です。
2つ目は「自己効力感」。
こちらは、あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、簡単にいうと「私はできる!と自分の可能性を信じることが出来る感覚」です。
基本的にこれらの感覚は、家庭と学校の教育の中で自然と育まれていくものなのですが、獲得出来ていない人もいます。
この意識の乏しさが先ほどもご紹介した、DVの認識について正しい判断が出来ないことに繋がるのです。

この「人としての権利」や「自己肯定感」・「自己効力感」に対しては、学校教育の中で育むカリキュラムを充実させる他に、各家庭内でも大切さを教える時間をたっぷりととる必要があると思っています。

対処法から根本的な問題解決へ。DVで苦しむ人をこれ以上増やさないために

【沢田さん】
「夕陽丘基金」の取り組みは、ある意味わかりやすい支援で募金も集まりやすい活動です。
ただ、資金の貸し付けというのは対処法でしかないので、根本的な解決にむけて、今後は「予防」の部分に対してどのようにアプローチできるかを考えていきたいです。

先ほども説明しましたが、やはり重要なのは「人権」だと思います。
DVは人権侵害にあたる行為です。
「人権」についての理解の向上は、DVの被害を防ぐことにも繋がります。

苦しむ女性をこれ以上増やさないためにも、経済的なサポートだけではなく、「人権」の理解を促進して、被害を予防するための教育にも力を入れていきたいと思っています。

【PREX児島】
今、目の前で困っている方への支援というのは、とても重要なサポートになりますが、 そもそも困っている人がこれ以上増えないように「予防」の視点からのアプローチというのも、非常に大切ですね。
「夕陽丘基金」の取り組みについて、詳しくご説明いただきありがとうございました。

続いては、PREXも一緒に活動をしている「上本町SDGs大学」について、現在の担当者の方も交えてお話をお伺いしたいと思います!

次のインタビュー

インタビュー記事3:SDGs、はじめの第一歩!~地域の皆さんと共に学ぶ上本町SDGs大学~

  • 掲載日:2022年11月5日
  • 企業名:大阪市男女いきいき財団
  • 氏名:PREX児島