信頼され、選ばれる日本へ。①- PREX Island
日本の専門家
JICA 上級審議役 宍戸健一さんとASSC 理事 和田征樹さんインタビュー①
「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)共同事務局担当者にインタビュー①
「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)の共同事務局を担当されている国際協力機構(JICA)上級審議役 宍戸健一さんと、ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)理事 和田征樹さんにお話を伺いました。
*PREXはビジョン2030の下、日本で働く外国人のことについても、PREXを通じて発信し関心をもって理解してもらえるよう、2020年「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)の会員となりました。
JP-MIRAIの設立の経緯について
瀬戸口
まずJP-MIRAIの設立の経緯について教えて下さい。
宍戸さん
JICAはODAによる途上国の社会経済の発展をメインに活動していますが、日本国内では過去十年を見ても外国人労働者の数は3倍に増えるほど、人手不足の状況が続いています。
JICAの各国内拠点にも外国人労働者についての相談が届くこともあります。
日本の産業・GDPの維持のためには人材の確保は不可欠で、今後さらに日本の少子高齢化による生産労働人口の減少が進むと、人手不足はもっと大きな問題になっていくと考えられます。
JICAでも入管法改正の議論がされていた3年ほど前から検討や勉強を始め、取り組みを開始しました。
JICAへの期待として、ODA事業でかつて支援してきた、職業訓練校や保健医療分野などのつながりで、日本企業に必要な人材を確保できないかという相談もありました。
しかし、日本での外国人労働者の受入において様々な問題があるということも知り、ショックを受けました。
ODA事業では留学生や研修員を受け入れ、日本への理解を深めてもらい日本との関係も強化しようとしていますが、アジアなどから日本に夢をもって来日する若者が、日本で期待したような賃金がもらえなかったり、非常に辛い思いをしたり、というケースが多いということを知り愕然としました。
海外では、日本人は「いい人」というブランドが定着しると思いますが、今後も現状のように日本の外国人に対する受入環境が改善されず、来日した若者たちが失望して帰国することが続くと、日本に来たいと思う人がいなくなるのではないかという漠然とした不安を感じ、国際協力に取り組んできたものとして、取り組まないといけない問題だと思い始めたのが2,3年前でした。
その頃から、JICAの中でも相談し取り組もうということになりました。
P-MIRAIの設立に向けてですが、2019年末にベトナムで労働省を訪問した際に、日本でベトナム人が失踪するなど問題が起きる背景には、ベトナムから送り出す段階で借金をしないといけないという状況があるからではないかと指摘したところ、「そのことと、日本で暴力を受けたり、残業代を払わない雇用主がいたりすることが、どんな関係があるのか」と言われて返す言葉がありませんでした。
これからは、日本に夢を持ってきてくれた人たちがまた来たくなる選ばれる日本でないと、日本を目指してくれなくなるのではないかと思ったのです。
日本の少子高齢化が進み、これからより極端に生産労働人口が減少するという状況で、それを担う外国人労働者がいなければ日本のGDPを維持できないのではないかと主張される方もいます。
一方で、アジアの中には日本と同様に少子高齢化が進む国もあり、これまで日本に労働者を送り出してくれていたような国が、逆に労働者を受け入れる側になってくる、そして日本との経済格差もなくなる中で、日本の労働環境が悪いとなれば、ますます日本を選んでくれなくなるのではないでしょうか。
日本に来たいという若者から、選ばれる国になる必要があると思いました。
ベトナムからの帰国後、和田さんと出会い、既に企業とともに技能実習生の労働問題などにも取り組んでおられるということで、一緒に活動しましょうという流れになりました。
去年の2月頃から準備を始め、いろんな方々に連携を呼びかけて11月に設立に至りました。
瀬戸口
本当に短期間で話が進み、設立に至ったのですね。
和田さんが実習生の問題に関わったキッカケ
瀬戸口
和田さんはいつごろから実習生の問題に関わっておられるのでしょうか?
和田さん
私自身は、2001年頃からアメリカのスポーツメーカーでCSR担当をしていて、日本の工場でも労働監査・社会監査を担当していました。
2002年のワールドカップに向けていくつかの工場に伺うと、外国人の方が働いていて、労務監査では給与支払いやタイムカードなどを確認していくのですが、外国人はひと月何時間働いても1年目は研修費6万円で勤務しているというケースがありました。
日本の制度上は問題ないのですが、CSRの観点からは問題となるため、労務提供に対する対価を正しく支払うようにという指導をしていました。
これが最初のきっかけだと思います。
私自身はCSRの観点から工場監査を行っていましたから、日本の制度であっても、海外の視点から見れば「労働者」であり、適正な賃金ではない、長時間労働が強いられる強制労働に繋がる、という判断になってしまいます。
日本人としてはストレスを感じる状況で仕事をしていました。
それを解消しなければならないと思い、JITCOに入職し活動してみたのですが、内部から変化を起こすのは難しかったため、独立して外からCSRを推進しようという企業と一緒にこの問題に取り組もうと考え、今から12-3年前ごろから個人で活動を始めた。
アスクは2017年に創設し、企業の皆さんとCSR、サステナビリティの観点から人権侵害に取り組み推進させるNGOとして活動しています。
瀬戸口
和田さんご自身の民間企業でのご経験が出発点なので、現場で感じられた課題に取り組もうとされているということですね。
JICAとしてのアプローチと、アスクのご経験が重なって今回のJP-MIRAI立ち上げになったのですね。
和田さん
そうだと思います。
アスク自体が外国人労働者のための活動を行ってきましたが、日本の企業にとっては外国人の方々に働いてもらわないと、サービスや商品提供ができないということになり、重要な労働力という認識をされていると思います。
そういう方々が、日本で強制労働や労働搾取ということに直面すると、来日しなくなる、人手不足になるのではないか、という懸念も含め、一人だけではできないことでも、皆さんと一緒に良い状況を作れるのではないか、日本を選んでもらえる状況を作っていこうということで活動しています。
宍戸さん
短期間で立ち上がった背景は、同じような危機感を持っている人が非常に多かったと思います。
残念ながら非常に悲しい報道に触れることが増えて、日本はこんなにひどい国だったのだろうか、ということもありますし、コロナ禍で困窮した外国人の行動に対して、差別につながるのではないかという状況も懸念され、これまで取り組んできた多文化共生に逆行するような状況はとても辛いと思いました。
2年前のラグビーワールドカップを見ていても、日本チームといっても多様な選手で構成されていて、同じ顔をしている人達だけではない、そういうチームを国民が心から応援するという機運が高まる一方で、足元では企業の中での難しい面がある点にギャップを感じます。
また、企業の方々の危機感としても、欧米を中心とした世界の流れは、サプライチェーンにおける人権侵害については親会社の責任であり、企業の株価にも影響するなど経済的な実害があり、下請けだから関係がないという時代ではなくなっています。
グローバル企業の危機感は非常に高いと思います。
時代の潮流としてはやらなければいけないことだったのですが、日本では国として取り組もうということがなかったため、JICAが呼びかけたところ好意的に受け止めてもらえ、企業・団体会員220社・個人会員115名(10月現在)の参加に繋がっていると思います。
瀬戸口
JP-MIRAIを最初に知った時、JICAさんがリードされているというのは驚きましたが、これまでの活動の延長線上で考えられたんだということがよくわかりました。
会員の業種と会員にとってのメリット
瀬戸口
会員数は現在335ということですが、会員の業種について、また会員にとってのメリットを教えて下さい。
宍戸さん
JP-MIRAIはみんなでやろうということで、分野・業種は限定していないので、中には切実に感じている大企業さんもいるし、呼びかけに参加したいという中小企業さんもおられます。
研究者や学者の方なども参加いただいています。
人材派遣会社、外国人労働者の送り出し機関などの組織も参加しています。
できるだけ多くの方々に集まってもらい、改善のために声を上げようということから、それぞれの役割の中で活動してもらうのがいいと思っています。
いろんな立場の人が参加することで、各視点から意見を言うことも可能になると考えています。
瀬戸口
参加企業も多く関心が高いということを実感しますね。
皆さんの活動への参加率は高いのでしょうか?
和田さん
各会員に直接関係するテーマかどうかで参加者は変化しますが、50名前後の方が参加されています。
多いときは100名を超えることもあります。
瀬戸口
活動の中で交流会も実施されていますが、会員同士の横のつながりも期待されているのでしょうか?
和田さん
新規説明会などではフリーなディスカッションが必要だと思っています。
関係者が横でつながっていないことも結構多いため、交流の場を作ることにしました。
JICA 上級審議役 宍戸健一さんとASSC 理事 和田征樹さんインタビュー②へ続く
- 掲載日:2021年11月18日
- 氏名:JICA 上級審議役 宍戸健一氏、ASSC 理事 和田征樹氏