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ウクライナに「カイゼン」の輪を広げたい。(2018年4月)

カウンターパートの声/ウクライナの未来のために絶対に必要。

2016年のビジネス実務研修(D)に参加し、日本のものづくりの取り組みに触れたとき、「この考え方を取り入れることで、ウクライナの企業は、もっと良くなる。なんとかウクライナの企業に伝えることはできないか」と強く思いました。
今回、その思いが実り、皆川健多郎先生をウクライナに招いてセミナーを開催することができました。
これはヴィーンヌィツャの企業にとって大きなチャンスだと思う一方で、本当に受講者が集まるか不安な気持ちもありました。
ところが、会員企業にセミナーの案内をしたところ、とても反響が大きく、他の州からも参加の問い合わせがありました。

セミナーの後半では、参加企業の工場を見学し、現地現物を見てどのようにカイゼンを進めていくかを考えるプログラムを企画しました。
このような取り組みは、商工会議所としては初めてで、見学を受け入れてくれる会社を見つけるのに苦労しました。
「自分たちの工場は見てもらえるほど良くないから」と断られることも多いなか、果物の加工会社と牧畜業関連機材製造会社の協力を得られることになりました。
自分たちの会社をより良くしたいとの思いを感じ、感謝するとともに自分たちの役割の重要性を感じました。

ヴィーンヌィツャ商工会議所 カスチーナ・ラリーサさん

カウンターパートの声/ウクライナの企業経営者には何もかもが初体験。

今回の研修を担当した明路です。
2月24日から27日の4日間、ウクライナ西部のヴィーンヌィツャという都市で、現地の製造業向けに日本の「カイゼン」の考え方を学ぶセミナーを開催しました。
受講者はウクライナの企業でカイゼンを推進する立場にある人で、大阪工業大学の皆川健多郎教授に講義と演習を実施していただきました。
40人もの受講者が、講義、演習、工場見学を通じて、カイゼンの原理原則について学びました。
企画段階では受講者数12名程の規模での開催を考えていましたが、応募者が多く、40名に枠を拡大しました。
それでも、希望者は多く、最終的に80名ぐらいの応募がありました。

みなさん、とても熱心に受講され、「日本のものづくりの考え方に触れることができた」「自分たちの会社を良くしていく新しい視点を得ることができた」といった評価をいただくことができました。
本プログラムは、AOTSの「低炭素技術輸出促進人材育成支援事業」を活用し、ウクライナ経済発展貿易省、ウクライナカイゼンクラブの協力を得てヴィーンヌィツャ商工会議所とPREXが共同で開催しました。

国際交流部 明路

 

皆川:
今回のセミナーは、「日本のカイゼンの考え方を伝える」という趣旨でしたが、私としては、「日本が特別に進んでいるわけではなく、我々も取り組まねばならない課題があり、そしてその解決のためには、ウクライナから学ぶことがある。
両国が力を合わせて一緒により良い製造プロセス作りに取り組んでいく関係を作りたい」との想いを持って講師を務めました。

会長:
セミナーは非常にわかりやすく、満足のいく内容だったと感じています。
私も受講生として参加しましたし、また他の受講生かあらも「学ぶことが多かった」という感想を聞いています。
とても充実した4日間でした。

皆川:
日本でテキストを構成していたとき、ウクライナの人たちに何を伝えたらよいのか、ウクライナの企業にとって本当に必要なものは何かを考えていたのですが、本当のことは実際に顔を見て話してみないと分からないと思うようになりました。
思った通り、今回の受講者のみなさんの質問や工場見学などから、大きな気づきを得ることができました。
ウクライナの人々や企業が置かれている状況について教えていただけますか?

副会長:
昨年、EUとウクライナの連合協定が正式に発効されました。
それにより、人の交流や貿易が拡大しています。ウクライナの企業にとっては、非常に重要な転機です。
最もインパクトが大きいのは、これまで少しずつ廃止されてきたEU諸国との間の関税が、2023年から完全撤廃されることです。
EU諸国でウクライナの製品を販売しやすくなる反面、ウクライナでEU諸国の製品が関税なしで販売されるようになります。
EU諸国の製品の中には、ウクライナで作られるものよりも値段が安く、品質レベルが高いものもあります。
ウクライナ企業は2023年までに、他の国の人たちが喜んで買ってくれるような品質の高い製品を市場に出すことが求められます。
またウクライナ国内の人にとっても、ウクライナの製品を買いたいと思える品質と価格で提供していくことが必要です。

会長:
もうひとつ、ウクライナとロシアが緊張状態にあることによる影響も受けています。
もともと、ウクライナ東部には多くの企業があり、製品レベルも高かったのですが、ロシアとの緊張状態のため、国の政策として、中部や西部に工場の移転が進められています。
現時点で、実際に移転した企業は2000社を超えるといわれています。
ヴィーンヌィツャでも、20社を超える企業が、東部から移転して操業を開始しました。
今、操業の準備をしている企業は、もっとたくさんあるはずです。
工場の移転は、決して簡単ではありません。
まず、以前と同じ品質とコストの製品を製造しなければなりません。
そしてより安いコストとより高い品質を実現しなければなりません。
このような中、ウクライナの製造業の企業は、外国の進んだ製造ラインや生産管理のしくみを学ぶようになり、多くの人たちが日本のカイゼンを学びたいと考えています。

皆川:
受講された方々の真剣なまなざしの背景がよくわかりました。
今回、カイゼンのセミナーで講師を務めさせていただいたことを光栄に思います。
実際に企業を訪問して感じたのですが、現場ではみなさん一生懸命働かれている一方で、非効率な部分も見受けられました。
感覚的ですが、現在の半分ぐらいの人数で稼動できると思いました。
ただ、単純に人員を半分にしてしまうと雇用が失われてしまいます。
今のウクライナの状況を考えると、人員の効率化とともに、新たな付加価値を生むプロセスを取り込み、雇用が失われないようにしなければなりませんね。

会長:
貴重なご意見に感謝します。
日本のみなさんには、日本での経験を共有していただき、ともに成長する関係を築いていきたいと思っています。
今回は、本当にありがとうございました。

皆川:
ありがとうございました。
また、会いましょう。
次回は、もっと多くのことをウクライナの方々から学べると思います。

広がる日本のカイゼン活動

ウクライナで実施した「製造業の省エネルギー化を目的としたカイゼン指導者育成研修」参加者から嬉しい便りが届きました。
2月に受講した内容を基に、さっそく独自の研修カリキュラムを作成し、社内の製造部門の社員を対象に実施したそうです。
研修は、「自社が直面している課題とそれを克服する手段」「経済効率を意識した生産の基本」「生産性を高めるための5S」という内容で、主に従業員の参加意識を高める目的で構成されました。
実際に手を動かして、5Sの効果を体感できる演習も取り入れたとのことです。
カイゼンの輪がますます広がっています。

「製造業の省エネルギー化を目的としたカイゼン指導者育成研修」のようす

実施企業:OBERBETON-INVEST