マレーシアの行政官が見た日本のマネジメント/マレーシア初級行政官研修 (2012年6月)

PREXでは、マレーシア政府からの要請に応え、マレーシアの行政官を対象に毎年2回の研修を実施しています。
6月に実施した「初級行政官研修」ではマレーシアの行政官20名が関西のみならず広く企業・行政機関へ訪問し、意見交換やケーススタディ等を通して初級管理職に必要なマネジメントのヒントを掴みました。
テーマは、(1)リーダーシップ、(2)チームマネジメント、(3)課題解決、(4)部下の育成、の4つです。今回ブラッシュアップした少人数ディスカッションメソッドの導入も含め、日程を追って研修員が何を学び、何に関心を持ったかご紹介します。なお、本研修は、通常の日本政府負担研修とは異なり、マレーシア・日本両国政府が経費分担する「コストシェアリング型」研修です。PREXがこれまで実施した本研修には、マレーシア各省から選ばれた行政官約400人超が参加し、帰国後も活躍しています。

6月11日、講義後研修員と握手するPREX杉本シニア専門家。

6月15日、津市役所職員とのグループディスカッション。

6月14日、万協製薬を訪問し工場を見学。

やる気のない職員に対しどう接するのか〈三重県、津市の職員とのディスカッション〉

マレーシアでは、幹部候補者は高等教育機関卒業後すぐに初級管理職に就き、年長のスタッフ職員に業務指示をしなければいけないという局面にぶつかります。研修では、マレーシアの研修員20名と三重県の職員15名が参加し、6つのグループに分かれて「スタッフ職員が職場のルールを守らない」「スタッフ職員との関係がぎくしゃくしてきた」などのケースをもとに、解決法を探る議論をしました。

「意欲のない職員に対しどう接するか」というテーマでは、「できた仕事をほめる。本人の得意分野を見つけ仕事を与え、やる気を出させる」と直言を避けがちな日本に対し、マレーシアは「直接注意する。カウンセラーを使う。職場環境をチェックするなど当該職員以外の原因がないか確認する。遅刻した分の残業を命じる」等、お国柄の違いも表われました。

研修員からは「同じような立場にある日本の自治体の方と議論ができ参考になった。マレーシアは現在、2020年の先進国入りをめざして一丸となっており、組織として大きな変化を起こす必要はないが、組織の活性化・改革は必要だと感じた。また、職員に対し一方的に注意するのではなく対話が必要であることが重要であることもよく理解した。まず自分自身を変えることから始めたい」と感想が述べられました。

ジョブホッピングで部下がやめてしまうのでは〈万協製薬〉

優れた企業の経営者からリーダーシップやマネジメントについての話を聞くため、スキンケア製品の受託生産を行う万協製薬を訪問しました。同社は、1960年に神戸市に創業されましたが阪神・淡路大震災により工場が被災し三重県に移転された従業員100名の企業です。研修員には、震災からの再建やリーダーシップのあり方、従業員を大切にする経営姿勢等について松浦社長からお話しいただきました。

研修員からは、「せっかく育てた人材の退職を防ぐ契約条項があるのか、ジョブホッピングで社員がライバル会社に行ったらどうするのか」とマレーシアの現状を反映した質問が出ました。松浦社長は、「退職については、人を信用しているので防止条項などはないし、別の会社で日本をよくするために働いてくれていればよいと考えています。結果的に当社で育った人材が地域に貢献してほしいです。ただ、会社を『楽しい会社』にしているのでこれは防止策といえるでしょう。もっと高い給与の会社はあっても、ウチより楽しい会社はないと自負しています」と答えられました。同席された社員の方からも「楽しいということは、モチベーション向上につながります」とコメントいただきました。当日は得意の歌も披露いただき、社員がついてくる「楽しい会社」の意味が研修員にも伝わったようです。

6月25日、日本茶道の精神を体験。

6月29日、閉講式にて修了書を受け取る研修員。

和・敬・清・寂 日本茶道の精神を体験

研修の内容をより深く理解するために、優れた経営やモノづくりへの姿勢の背景にある日本人の精神的な考え方や文化に触れていただこうと、茶道裏千家の教授PREX池田シニア専門家にご協力を得てお茶室で茶道を体験していただきました。

茶道は、日本の総合文化です。池田専門家は茶道体験を通して和(harmony)、敬(respect)、清(purity)、寂(tranquility)の4つの精神を感じてほしいと説明されました。まず和、お互いが心を開いて仲よくすること。茶室ではホストが温かいもてなしの気持ちでお茶を用意し、ゲストは皆で仲良く相互にお辞儀をしながら、平和な気持ちでお茶を飲みます。次に、敬。優劣、上下、身分の差を超えた尊敬で、慎み深くおごらない様子です。茶室に入るときは狭い入口から身をかがめて入ります。身分の上下に関係なく、だれもが慎み深く、尊敬の気持ちがわいてきます。3番目は、清。茶席に入る前に手を洗い、口をゆすぐと心も清らかな気持ちになるはずです。最後は、寂、何事にも動じないありのままの安定した平静な気持ちを言い表しています。

その他、お辞儀の作法や花や軸、道具類についても説明を受けました。体験後、覚えたての作法(真行草)でお辞儀をしてくれた姿に、期待したとおり“日本の心”の背景を学んでくれたことを実感しました。

 

成果発表会、評価会での研修員の声

初めて日本を訪問し、企業や行政機関のリーダーシップ、チームマネジメント、課題解決、部下の育成の事例を目の当たりにしたマレーシアの行政官には、日本人の「互いに配慮する姿」、「仕事や会社への忠誠心」、「勤勉さ」が強く印象に残ったようです。訪問先では、どうして日本では、上司に指示された以上の結果を出そうとするのか、なぜ仕事の技術を高め工夫を凝らそうとするのか、どうやったら就業前に全員が揃うのか、という質問が次々出ていました。研修の最終日、研修員の一人シャリザルさんは、「日本で一番印象に残ったのは、チームワーク。日本の人は組織、チームの一員として生活し、働き、苦楽を分かち合う。そして問題を抱えているチームのメンバーを一人にすることはなく、チームの目的達成のために進んで助け合おうとする。それが、各人が時間を守り、進んで仕事をすることにつながっていると思う。日本人は目的を達成するために、全力を尽くす。だから、日本は先進国というだけでなく世界の尊敬を得る国になったと思う」とコメントしてくれました。

また他の参加者からも「人を軸とする経営や職場での親身になったコミュニケーション、報連相を学べたことは非常に役に立った。組織を動かす立場にはないが、まずここから取り組みたい」「研修全体として日本の人材育成や文化を学ぶ上で非常によく考えられたプログラムであった。研修成果を参加者自身だけでなく、所属組織、そしてマレーシアにとって有益に生かせるよう取り組みたい」と研修への感想が述べられました。

私たちPREXの職員は、世界各国の研修参加者が日々感じる日本への感想や研修の成果報告のコメントから、「チームワーク」「自律心」「勤勉さ」等、日本人として大切にすべきことに気づかされます。今回のマレーシアの研修では特に研修員と日本人の意見交換の時間を多く設けたことで、より多くの日本人と交流し、テーマに関する事例への理解を深めてもらえたようです。今後も日本ファンになった研修員に「優れたマネジメントの事例」や「魅力ある日本」を発信していきたいと考えています。

(国際交流部 末尾、関野)


研修概要

研修名
マレーシア初級行政官研修
実施期間
2012.6.8(金)~6.29(金)
研修参加者
マレーシア行政官20名
委託元機関
独立行政法人 国際協力機構(JICA)関西国際センター
研修のテーマ :  経営管理