老舗の過去・現在・未来、継続は力なり。株式会社 細尾(2018年3月)

前列左から2番目が 株式会社細尾 代表取締役社長 細尾真生氏
2018年1月カンボジア、ベトナム、ラオスの研修参加者とともに京都上京区House of Hosooにて

研修員は、伝統と革新のギャップに驚き、共感してくれています

研修員の皆さんは、伝統的なものを作っている古臭い考えの企業だろうと思って来られます。このHouse of Hosooの古い日本建築と空間をみて、一層そう感じるでしょう。ですが、講義の内容は、最先端の技術やデザインを取り入れ、アーティストとコラボレーションに取り組んでいる経営革新の話です。抱いていたイメージとのギャップが大きく、新鮮に映るようで、熱心に話を聞いてくれます。
途上国の行政官や企業経営者の方と話していると、売り上げやシェア、従業員をどう増やすのか、ということに関心を持つ方が多いです。しかし経営で最も大切なのは、企業規模を大きくすることではなく、継続することだと考えているとお伝えします。
当社は、これまで320年続いてきた企業ですが、これから100年後、200年後、300年後の子孫が、この事業をどう継続しているのかを中長期的にみること、適正な利益を上げながら継続していくことが大切です。そのためには、世のため、人のために役に立つ仕事をすることが、もっとも重要だと考えています。
その一環として、海外からの研修員に、この京都の西陣の地を訪問してもらい、自分たちが時代の変化の中で10年、20年と信じてやり続けていることをお伝えし、共感してもらうことに意義を感じています。
国内の学生や海外の企業向けの見学や大学での講演も引き受けています。 経験をシェアすることで、当社の経験を活かしてもらえる可能性があると考えているからです。

ブルーオーシャンをめざすには、コラボレーション

今は、戦後日本が経済成長してきた時代とは違います。
戦後日本が経済成長してきた時代は、大量に資源を使い、大量に生産し、大量に販売し、売り上げを上げる、だが、利益はでないという時代だったと思います。
しかし、この数年、企業がめざしているのは、「サステナビリティ(持続することができる)」で す。世のため、人のため、社会のために役立つ仕事をしないと利益は生まれず、持続することが できないという考え方です。
企業は、多くの資源を使い経済成長してきた結果、今世界がどういう課題を抱えているのか、よりよい未来を創るためにどうしていくのかということを考えなければなりません。
先日訪問された研修員の皆さんに強調してお話ししたのは、「コラボレーション」ということです。
私たちは、自分たちが一番になるために足を引っ張り合って競争をするのではなく、強みを融合させ て新しい価値を作り出すこと、無駄な競争をしないで潤っていくことを目指さなければいけません。シェアを取り合う、営業マンを増やす、販売促進を強化する、宣伝を増やす、残業を増やす、利益が出ない、疲れる、この循環からは、よりよい未来は生まれないからです。
中小企業1社では限界がありますが、さまざまな分野の技術を融合させてブルーオーシャンのマ ーケットを目指すことが大切です。
当社の場合も、呉服市場が急速に縮小し、小売業者・流通業者が倒産廃業。産地が疲弊し、技術 の後継者もいなくなるという危機的な状況にありました。2005年からは、西陣織を着物や帯だけ でなく、形を変えて海外に売り込むことができないかと考え、海外展開に取り組み始めました。
当初は惨敗続きでしたが、クリスチャン・ディオールの店舗の型布として西陣織が使えないかというオーダーを受け、それにこたえるために、150㎝と幅広の西陣織織機を一から開発しました。
それから、ラグジュアリーブランドショップや国内外からのホテルから注文を受けるようになったのです。今は、次々に新しいコラボレーションがうまれ、西陣織の可能性を広げています。
これは、わくわくする仕事で、楽しくて仕方がありません。研修員の皆さんは、私たちが、チャ レンジやコラボレーションで、西陣織の新しい価値を生み出すことを楽しんでいるのを実感され ると思います。
新しいことにチャレンジするには、人、お金、時間が必要です。企業はそこに投資しなくてはいけません。かといって、投資したから成功するとは限らないのですが、長期的に企業を継 続させるには、こうしたチャレンジが絶対に必要です。
ブルーオーシャンをめざして、コラボレーションにより人と情報、技術、文化を融合させると、思ってもみなかったアイデアや要望が出てそれにこたえる形でイノベーションが生まれます。新しいことに果敢に取り組むこと、そしてそれを楽しむことが事業を継続させる秘訣です。

AIと西陣織

今取り組んでいるのは、西陣織とAI(人工知能)の組み合わせです。
山口市にある山口情報芸術センターと人工知能による西陣織のプログラミングの可能性について共同研究しています。織物の中で最も伝承が難しい技術を人工知能でプログラミング化できないかという研究です。
織物は、平織、斜文織、繻子織の三原組織、素材、色の組み合わせでできています。人がつくった組み合わせの指示書を基に織機が織り上げます。
この指示書を作る作業は、人間の頭の中で経験とイメージをつないで行う作業で、もっとも伝承が難しい技術です。当社では、今65歳の製造部長がこの指示書を作っており、後継者を育てるのが喫緊の課題です。
そこで、この作業を人工知能にやらせたらどうかということを考えたのです。人間が指示書をつくると人間が考えた計画通りの布が出来上がります。そこで用途を考えて人工知能に布をつくらせるわけです。人工知能は人間が想像できなかった布も含めて様々な布の提案をするでしょう。人間は、人工知能が提案した数種類の布の中から、どれをどう活用するかを考えます。将来は、この部分もビッグデータで処理されるのかもしれません。

ものづくりに先端技術をどう取り入れるかは、企業間の大きな格差に繋がるでしょう。うちのような零細中小企業こそ先端技術を活用しなくてはいけません。

3月11日まで、山口情報芸術センターで、共同研究開発の成果を展示しています。
アーティスト、研究者とのコラボレーションで、人類にとって布とは何かというテーマです。人工知能で作った布の展示がありますので、機会があれば見ていただきだいと思います。
http://www.ycam.jp/events/2017/hosoo/

科学、IT、デザインとものづくり

これからのものづくりには科学、IT、アート、デザインとの組み合わせが必要で、この部分には若い人の関心も高いです。西陣織の伝統と可能性についてと題して300人の学生に講義をすることもありますが、みんな真剣に聞いています。
学生は、働くということに既成概念をもっています。効率を上げて利益を出さなければいけないとか、ノルマがあるとか、つまらないイメージでしょう。ですが私たちのコラボレーションやAIへの挑戦には、強く共感してくれるようです。

社員のモチベーションを高めるには、何のために働くのかゴールを明確にする

従業員55名のうち、製造部には8人のメンバーがいます。5人は32歳以下で、技術を身につけようと非常に熱心に頑張ってくれています。技術を身につけるのに、10年は必要です。彼らが仕事へのモチベーションを維持し、高められるように工夫しています。
織物は、デザイン、プログラミング、機織り、染色他、20以上の工程を経て完成します。職人さんは、従来、作業工程ごとに横割りで仕事していました。織機で製織する職人さんは、製職する作業のみを継続しつづけるのです。それは、良いクオリティで、早く織ることが求められ、その技術を高めることでお給料を増やしていくことができた時代だからです。今の若い人は、そんな仕事の仕方ではモチベーションを維持できません。
私たちは、社員が「自分は何のために働くのか」というゴールを明確にできるように、仕事を縦割りにしました。大学や専門学校を卒業して入社してくる社員に、「あなたは、クリスチャン・ディオールのこの仕事の責任者ですよ」と役割と責任を与えます。彼らは、クリスチャン・ディオールのオファーを受けて、企画・デザインを考え、サンプルを作ります。そして注文が来たら、納期までに製品を完成させなければならないのです。そのためには先輩に聞き、まわりに手伝ってもらって仕事を進めなければならないから、自然と仲間に応援を頼む方法を身につけます。そして、先輩は若手社員を教え助ける仕組みができます。そうすると社員が協力して自主的にローテーションを組みながら助け合って仕事を進めるようになるのです。すべての工程に関わることで、短期間で織物に関わるさまざまな技術を吸収することもできます。
完成品は、パリのクリスチャン・ディオールのお店の壁面を覆い、人々に喜ばれているのを見ることで、彼らは自分の仕事に誇りをもち、さらに成長するモチベーションを高めます。うちの社員は、みんな楽しんで仕事をしていると思います。

社員が辞めてしまう組織や社員がモチベーションを維持できない組織は、経営者に問題があります。モチベーションを高める仕組みを作るのは経営者です。社員が、自分たちは何のために働くのか、ゴールが何か明確に持てることが大切です。
当社で働きたいと言ってくれる若者は多くいます。おもしろい会社、ポテンシャルがある会社、社会の役に立つ会社は、新鮮のようです。「生き方=働き方」、「この仕事が天職」と思ってもらえるように経営者が環境を整えなければなりません。

これまでの依頼実績:2007年度ウズベキスタン・キルギス日本センタービジネス研修

2011年度ラオス日本センタービジネス実務研修
2014年度中小企業振興金融技術支援(C)
2015年度先進国マーケティング
2016年度中小企業振興経営金融支援(B)
2017年度カンボジア日本センター「企業家育成研修」
講義いただいたテーマ
「地場産業を基にした新製品開発、企業経営、行政支援の活用について、経営革新事例」

―2018年1月24日(水)の取材内容をまとめたものです。―