日本でいちばん大切にしたい会社~中小企業における経営の指標とは〜/法政大学大学院政策創造研究科 教授 人を大切にする経営学会 会長 坂本 光司 氏(2016年8月)

法政大学大学院政策創造研究科 教授
人を大切にする経営学会 会長

坂本 光司

5 月26 日、大阪国際交流センターで開催されたJICA コラボデスクセミナーで、「日本でいちばん大切にしたい会社」の著作で有名な法政大学坂本先生を講師にお招きし「中小企業経営における重要な指標と海外展開成功事例」についてご講演いただきました。当日の講演の一部をご紹介します。

為替に左右されない「五方よし」の経営

 昨日、日本経済新聞の取材があり、最近の為替の動きが地域の中小企業にどんな影響があるかとインタビューを受けました。20 年前にも全く同じ取材を受けましたが、私の回答は20 年前と変わりませんでした。「人間の命と生活を守るのが企業の役目。神様もわからないような為替の変動に左右されない経営をするのが経営者の使命です。『景気超越型企業』になれ!」というのが私の考えです。
日本で売れないから海外に出ようというのも最近よく聞く話です。国内で売れないものがどうして海外で売れるのでしょうか。日本には、社員、その家族、かかわりのあるあらゆる人々を幸せにし、為替の変動にびくともせずに成長している会社が全国にあるのです。
富山県の黒部に従業員500 人の自動車部品の下請け企業があります。取引先の自動車メーカーの利益率は5%。その会社の利益率は2%です。私は「よく取引を続けられますね。怒りを覚えませんか?これではあなたの社員とその家族は幸せになれませんよ」と話しました。

近江商人が大切にしていた「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」の考えがあります。わたしは「五方よし」だと言っています。「五方よし」の五方は、
1、社員、その家族
2、仕入れ先、外注先、下請け企業
3、現在・未来顧客
4、社会的弱者
5、株主
です。この五つは、並列ではなく、大切にすべき順になっています。

会社にとって大切なものは、社員、そしてその家族

会社にとって何より大切なのは、社員、そしてその家族です。目の前のお客様に感動を与えるような社員は普通の社員の2倍、3倍勉強しないと務まりません。それを支えるのは家族です。社員とその家族を大切にしない会社に未来はないでしょう。リストラを行って業績が改善しても、それは一時的なものです。その後、会社を良くしようと誰が思うでしょうか。だからリストラをせず、全員の給料を下げてでも雇用を守っていかなければなりません。正しい経営を行っていれば、おのずと業績はついてきます。なぜなら、実際に正しい経営を実践し、何十年間も安定的に業績を伸ばしている会社を、私は何百社も見てきたからです。

次は、仕入れ先や外注先、下請け企業

次に大切なのは、仕入れ先や外注先、下請け企業です。日本では下請け企業の重要性を理解する企業は多くありません。「やりたくない仕事を外にだす、景気の調整弁にする」こんな考えの企業がのさばっているこの国は危険です。1 年間に10 万の新たな企業が生まれています。一方で30 万の企業がつぶれています。毎年20 万ずつ企業が減っていっているのです。日本にある企業の数は420 万。ということは、21 年で0 になるということです。黒字の会社もつぶれ、雇用の場が失われています。
この数字が示すのは、自分たちの企業だけでなく、仕入れ先を大切にし、社外社員に心を馳せなさいということです。社外社員をコストと考えず、社員と同じように給料を支払ってください。そうすれば愛される会社になる。利益率は下がっても愛される会社であれば継続します。
「五方よし」の経営は「日本型経営」ではありません。「正しい経営」です。ベトナムにもいい経営はあります。どの国の人も幸せになりたいからです。中国の経営者たちも私のところに学びにきています。「もはや日本の大企業に学ぶことは何もありません。坂本先生が『日本でいちばん大切にしたい会社』に紹介されているような中小企業を見に行きたいです」と彼らは言います。

海外展開の成功事例をお話ししたい。

世界は、ボーダレスになっており国際的にならざるを得ない企業も多くあるでしょう。私は、日本国内の空洞化を加速させないためにも国内にいながら世界の人々を魅了する企業をめざすのがよいと考えています。世界の人が「あの会社で働きたい」という企業になるのです。国内でうまくいかないから、海外に出ていこうとする企業もありますが、日本でうまくいかない会社が法律、制度、言葉、さまざまな違いのある国で成功するとは思えません。人件費が安いという理由で海外に出ていく話も聞きますが、誰かの犠牲に成り立つ成功は欺瞞です。そんな国際化は評価できません。国内にありながら「あなたの会社につとめたい」と世界中の人が集まるような会社になってほしいと思います。
「順徳矢崎」という企業があります。自動車用組電線(ワイヤーハーネス)大手、矢崎総業の中国の拠点で2500 人の社員がいます。離職率の高い中国で、この企業の離職率はゼロです。なぜ成功したのか、社長を務めていた杉山さんにお話を聞きました。社員に生産性をあげるように話したことは一度もないそうです。工場のすべてに温水洗浄のトイレを設置。従業員の膝の負担を軽くするためラインごとに休憩できるスペースがあります。中国各地から集まる従業員が生まれ育った料理を食べられるようにレストランには8 人のコックがいます。杉山さんが退職される日は、2500 人の社員が列を作って握手をしに来たそうです。こうしたすばらしい企業を日本の人にもっと知ってもらいたいと思っています。

ぶれない企業の共通座標

  1. リストラをしない
  2. 長時間残業をさせない
  3. サービス残業をさせない
  4. 社員に大けがをさせない
  5. うつの社員を出さない
  6. ノルマを課さない
  7. 社員間の過度な競争をさせない
  8. 経営情報の公開をしている
  9. 適正賃金を支払う
  10. 社員満足度調査を毎年実施
  11. 社員に十分な教育のチャンスを与えている
  12. 独自の福利厚生制度がある
  13. 仕入先を大切にしている
  14. 顧客を大切にしている
  15. 障がい者を大切にしている
  16. 高齢者を大切にしている
  17. 適正利益を上げている
  18. 本社が小さい
  19. 景気・流行を追わない
  20. 急成長を追わない
  21. 独自技術・独自商品の保有
  22. 新商品開発に注力
  23. 自己資本比率は50% 以上
  24. 社員と家族のメモリアルデイを祝す
  25. 価格競争をしない
  26. 全員参加経営
  27. その他

坂本先生からPREX への一言!

 JICA やPREX には、日本・海外を含め、今日紹介したような優れた企業経営を見学するツアーをどんどん企画してもらいたいですね。