日本で中小企業振興を学ぶ意義は/JICA国際協力専門員 上田隆文 氏(2012年3月)
JICA国際協力専門員
上田 隆文氏
中小企業振興をテーマとする研修は途上国からのニーズが高く、PREXでは今年度計4件の研修を実施しました。うち2件の「中小企業振興のための金融・技術支援研修」には、アフガニスタン、アルバニア、エチオピア、エルサルバドル、グルジア、ケニア、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、パキスタン、パプアニューギニア、バングラデシュ、マケドニア、マレーシア、メキシコ、モンゴル、ラオスの18カ国から24名の行政官が参加しました。途上国にとって日本の中小企業振興の事例を学ぶ意義について、「中小企業振興のための金融・技術支援研修」にご協力いただいたJICAの国際協力専門員 上田 隆文氏から寄稿いただきました。

優れた企業経営を行っている企業を訪問する世界各国の研修員

中小零細企業は雇用の源 
多くの途上国では成長のエンジンとして民間セクターの役割が重視されており、中でも中小零細企業は雇用の源としての役割を果たすことが期待されています。そのため中小零細企業振興が大きな政策課題として取り上げられることが多くなっています。ここで単に「中小企業」と言わず、「中小零細企業」としたのは、現地で言う「中小企業」は日本人から見ると「零細小企業」であることが多いからです。また、政府の財政上の制約や政策・施策の策定・実施能力の不足、汚職防止制度拡充の必要性等、日本の状況とは様々な違いがあります。特に国によっては農業以外の雇用の9割を占めるとも言われる「インフォーマルセクター」と呼ばれる行政の網から漏れている零細小企業或いは自営業の人達の多さも途上国の現実と言えるでしょう。また、ジェンダー平等促進に関する関心はむしろ途上国のほうが高い状況です。

日本での研修の「百聞は一見に如かず」 
このように日本との状況が違うため、高い交通費を払って極東の日本に連れて来て研修する意義があるのかと問う向きもあろうかと思います。しかし、他国の状況は英語(或いはフランス語やスペイン語)で情報が伝わりますが、日本は「不言実行」の良き伝統と言語の壁によって対外的な情報発信がなかなかされない状況が続いています。このような中で「百聞は一見に如かず」の諺の通り、実際に日本に来ていただき、いろいろなものを見聞きし、時には香りをかぎ、肌で感じてもらうことで日本のやり方を知ってもらうことが必要で、それには日本での研修が効果的です。研修内容自体が参考になるかどうかということに加え、西洋とは別のやり方があるということを知ってもらう意義もあります。また、日本人に日々接することで日本との絆を作っていただくという副産物もあります。

より実り多い研修を目指して 
今年度JICA大阪国際センターの「中小企業振興のための金融・技術支援」に二度ばかり関わらせていただき、PREXの方々が上記のような違いを真摯に受け止め、創意工夫をされていることを知って感銘を受けました。日本での様々な政策・施策をそのまま学ぶだけではなく、それらの基となっている考え方や背景を学ぶことにより、自国で課題に取り組む際の参考にしてもらうこと。日本での事例をきっかけにしつつも、他の国から同じコースに参加している研修員達同士が互いの国でのやり方を参考にする機会を与えること。これらの工夫を重ねながら、少しでも実り多い研修を実施しようと努力されています。 但し、研修員がせっかく研修で学んだことを帰国後の仕事に生かそうとしても、上司や財政当局の理解を得られなければ実行には移せない状況も頻繁に起こります。そのため研修事業と他の技術協力スキームとの効果的な組み合わせが必要となりますが、これはJICAの他の部局や事務所の責任で、我々の今後の努力次第と肝に銘じている次第です。